Q11:労使協定に基づいて賃金から事故の損害額の一部を負担させる場合、控除できるのは10分の1まででしょうか?
A11:1回の額・総額について制約のある「減給の制裁」と違い、労使協定に基づく賃金の一部控除については、労基法上、控除額についての限度は定められていません。ただし、私法上は賃金の4分の3に相当する部分は使用者側から相殺することはできないと考えられます。
事故の損害金を徴収している会社で、「給料の10分の1までしか引いちゃいかんのでしょ?」という話は、実はよく耳にします。
「それってペナルティとして引いてるんですか?」と尋ねると、
「事故を起こしたのだから、ペナルティの意味も込めて控除を・・・」
「!?」
このあたりから話が噛み合わなくなってきます。
どうも「損害賠償」と「減給の制裁」が混同されてしまっているようです。
これまで、事故により現実に生じた損害額について請求すること自体は違法ではない(Q9)、その額を給与から控除する場合は労働基準法24条に基づき労使協定が必要(Q10)、と解説してきたところです。
一方、「減給の制裁」は、就業規則に基づく懲戒処分の一種です。通常は、非違行為に応じて「減給」のほか「けん責」「出勤停止」「懲戒解雇」などの処分が定められています。
この制裁行為としての「減給」ついては、損害賠償請求と違い、労働基準法第91条(制裁規定の制限)で明確な制限が設けられています。
「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」
どうも、ここから「給料の10分の1まで」という話がきているようです。
損害賠償と減給の制裁は違うものです。
事故を起こしたことに対する懲戒処分としての「減給」であれば、それは損害賠償ではありません。
この違いを明確にし、なぜ、この額が給料から引かれているのかを労使双方で認識しておかなければ、おかしな話になってしまいます。
それでは、損害賠償の場合なら賃金控除の限度はないのでしょうか?
労働基準法上の制約はないのですが、行政通達では次のように示しています。
【控除額の限度】
「法第24条の規定による賃金の一部控除については、控除される金額が賃金の一部である限り、控除額についての限度はない。なお、私法上は、民法第510条及び民事執行法第152条の規定により、一賃金支払期の賃金又は退職金の額の4分の3に相当する部分(退職手当を除く賃金にあっては、その額が民事執行法施行令で定める額を超えるときは、その額)については、使用者側から相殺することはできないとされているので留意されたい。」(昭29.12.23 基収6185 号、昭63.3.14 基発150号)
つまり、民事的な争いになることを避けるならば、多くても賃金の4分の1までにしておくのが無難ということです。
もちろん、これまで慣例的に10分の1にとどめていたとしたら、労働者の負担軽減にもなることですので、これを否定するものではありません。
ただ、労働基準法を根拠にするのは間違いですよ、ということです。