2024年4月から、これまで「自動車の運転業務」に適用が猶予されていた「時間外労働の上限規制」が始まります。具体的には、タクシー会社にどう影響するでしょうか?

1. そもそもの話

  • そもそも法定労働時間(原則週40時間、1日8時間)を超えて、また法定休日(週1日、例外的に4週4日)には働かせてはならない。
  • 法定労働時間を超えて働いてもらうには、労使協定(36協定)を締結して所轄の労働基準監督署へ届け出しなければならない。
  • 36協定の中では、延長時間を無制限に決められるわけではなく、「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準(以下「限度基準告示」)」(平成10年労働省告示第154号)により、延長できる時間は、1カ月なら45時間、1年では360時間までというように、区分に応じて延長できる限度時間が定められていた。
  • ただし、「特別の事情」がある場合に限り、「特別条項付き協定」を結ぶことによって、更に延長した時間を設定することが可能(ただし年6カ月に限る)と、「限度基準告示」の中で定められていた。

これまで乗務員の36協定を結んできたタクシー会社は、隔日勤務なら月50時間、日勤勤務なら月80時間など、限度時間を超えた延長時間を定めてきたと思います。一方で、「特別条項付き協定」を結んだことはなかったでしょう(内勤者を対象とした場合は別として)。
それが可能だったのは、「限度基準告示」の中で、「自動車の運転の業務」に関しては、この限度時間の適用除外とすることが明記されていたからです

そもそも、なぜ適用除外とされたかというと、自動車の運転の業務に関しては、別に「改善基準告示」というルールに基づいて行政指導がなされるから、という名目があったからなのです。
実際、乗務員の延長時間に関しては、改善基準上の「拘束時間」により、無制限に延長時間を定めることはできない仕組みになっています

2.時間外労働の上限規制とは

2019年4月に労働基準法が改正され、時間外労働の上限規制が導入されることになりました。過重労働防止の面で、今までのルールには以下のような不備があったからです。

  • これまでの「限度基準告示」による上限は、罰則による強制力がなかった。
  • 特別条項を設けることで、上限無く時間外労働を行わせることが可能となっていた。(つまり、労使が協定すれば、月150時間とか、200時間と定めることも違法ではなかった)

新たに導入された上限規制の内容は次の通りです。

① 時間外労働の上限は原則として 月 45 時間年 360 時間まで
② 臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)でも、以下は遵守しなければならない
・時間外労働は年 720 時間以内であること
・時間外労働と休日労働の合計が月 100 時間未満であること
・時間外労働と休日労働の合計について、「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」が全て1月当たり 80 時間以内であること
・時間外労働が月 45 時間を超えることができるのは、年6か月が限度
③ 違反した場合には、罰則(6か月以下の懲役または 30 万円以下の罰金)あり

要するに、従来「限度基準告示」で書かれていたことが、労働基準法の条文に格上げされ、内容がより厳しくなったというイメージです。もちろん、労働基準法ですから、罰則付きです。

ここで肝心なこと。
法改正に伴い、「限度基準告示」は廃止されたということ。すなわち、「自動車の運転の業務」は限度時間の“適用除外”、という根拠が失われてしまったわけです。
では、「自動車の運転の業務」の扱いはどうなったのでしょう?

3.自動車の運転の業務と上限規制

改正労働基準法で上限規制の適用が“除外”されたのは、「新技術・新商品等の研究開発業務」のみ。
「自動車の運転の業務」に関しては、5年間の“適用猶予”という位置づけになりました。 つまり ・・・

2024年3月31日まで 2024年4月1日以降
上限規制は適用されません ①限度時間(月 45 時間・年 360 時間)を超えて時間外労働をするなら、「特別条項付き36協定」の締結が必要
②年間の時間外労働の上限は960時間まで

時間外労働と休日労働の合計が月100時間以内とか、2~6か月平均80時間以内という規制は適用されません。
時間外労働が月 45 時間を超えることができるのは年6か月が限度という規制も適用されません。

つまり、2024年4月以降も、隔日勤務なら月50時間、日勤勤務なら月80時間といった時間外労働は可能ですが、以下の2点を踏まえる必要があります。

  • 新様式で特別条項付き36協定を締結・届出をする。
  • 年間の延長時間は960時間まで(だから、月100時間までという協定を結んだとしても、実際は月平均80時間以内に収めなければならないということ)

4.36協定届はどうなる?

2019年4月以降、「自動車の運転の業務」については、猶予期間中(2024年3月31日まで)の様式として様式第9号の4が提供されていました。

そして2024年4月以降、「自動車の運転の業務」については、 特別条項付き36協定(様式第9号の3の5)で届出を行う必要があります。
もちろん、限度時間(月 45 時間・年 360 時間)を超える時間外労働が発生しないなら、特別条項無しの36協定(「様式9号3の4」という様式になります)でいいのですが、 現実にはあまり無いでしょうから、ここでは説明を省略します。

タクシー会社の特別条項付き36協定届の様式(第9号の3の5)と記載例は書式ダウンロードページ

では、猶予期間中の36協定(様式第9号の4または従来様式)と、特別条項付き36協定(様式第9号の3の5)の切り替えのタイミングはどうすればいいのでしょうか。

36協定は、有効期間1年(4/1~翌年3/31とか、10/1~翌年9/30など)で締結するルールとなっていますので、有効期間の始期(起算日)により次のように考えます。

つまり、2024年4月1日以降の最初の始期(起算日)分から、順次、特別条項付き36協定で締結していかなければなりません。
もちろん、2024年4月1日より前の起算日から適用しても問題はありません。

タクシー会社の特別条項付き36協定届の様式(第9号の3の5)と記載例は書式ダウンロードページ