歩合給の割増単価は固定給の割増単価よりも安いから、残業代支払いを考えるとオール歩合給の方が有利! という話を聞くことがあります。
本当にそうなのでしょうか?
まず、労働基準法施行規則第19条は、割増賃金の基礎となる時間単価の計算を次のように示しています。
- 月によって定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数(月によって所定労働時間数が異る場合には、一年間における一月平均所定労働時間数)で除した金額
- 出来高払制その他の請負制によって定められた賃金については、その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間、以下同じ)において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額
要するに、固定給については、賃金を所定労働時間数で割って時間単価を出すということ。出来高払制、つまり歩合給は賃金を総労働時間数で割って時間単価を出すということです。
これに割増賃金率を乗じなければなりません。
時間外労働の法定割増賃金率については、労働基準法第37条で「通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上」と定められているのはよく知られているところです。
これは、時間外労働について通常の賃金を支払いつつ、更に2割5分の割増賃金を支払うという意味です。実務的には、時間外労働に応じて12割5分(1.25)の割増賃金を計算します。
ただし、出来高払制の場合は、時間外労働に応じて2割5分(0.25)の割増賃金を計算することが行政通達で示されています。
では、オール歩合給の方が固定給の場合より残業代の支払いが安くなるとは?
条件:所定労働時間171時間 時間外労働30時間 運収40万円
A:固定給の場合 固定給 200,000円 時間外割増単価 200,000÷171×1.25(割増率)≒1,462円 時間外割増賃金 1,462×30時間=43,860円 合 計 243,860円 |
B:オール歩合給の場合 歩合給 200,000円(歩率50%) 時間外割増単価 200,000÷(171+30)×0.25(割増率)≒249円 時間外割増賃金 249×30時間=7,470円 合 計 207,470円 |
固定給の場合の総額 243,860円 > 歩合給の場合の総額207,470円
よって、残業代の支払が安く済むオール歩合給の方が有利!
・・・・・・・ん?
この比較って何かおかしくないか・・・?
このケースだと、運収40万円を得るのに費やした総労働時間は201時間(171時間+30時間)で同じです。
しかし、賃金支給率(賃金総額/運収)があまりにも違います。
A:固定給の場合の支給率60.965%(243,860円/40万)
B:歩合給の場合の支給率51.868%(207,470円/40万)
そうすると、固定給額20万、歩合給額20万からスタートすることがそもそも無理筋ではないか?
(そもそも固定給20万の根拠は何なの?)
A、Bそれぞれの賃金支給率を正として、歩合給や固定給の方を補正してみましょう。
割増率を考慮すると、運収40万円を得るのに費やした労働時間は次のように換算されます。
固定給の場合:171時間+30時間×1.25=208.5時間
歩合給の場合:201時間+30時間×0.25=208.5時間
A:固定給の場合の賃金合計243,860円で歩合給を再設定すると、 243,860円×201時間/208.5時間≒235,088円 歩合給 235,088円(歩率が58.772%ということ) 時間外割増単価 235,088÷(171+30)×0.25(割増率)≒292.4円 時間外割増賃金 292.4×30時間=8,772円 合 計 243,860円=Aの賃金合計 |
B:歩合給の場合の賃金合計207,470円をベースに固定給を再設定すると・・・ 207,470円×171時間/208.5時間≒170,156円 (不利益変更になるので、通常こんなことはできませんが) 固定給 170,156円 時間外割増単価 170,156÷171×1.25(割増率)≒1,243.8円 時間外割増賃金 1,243.8×30時間=37,314円 合 計 207,470円=Bの賃金合計 |
どちらのケースも、固定給の方が割増単価も割増賃金も安いことに変わりはありませんが、賃金合計は同じということです。(当たり前ですが)
これでは、残業代支払いにおいてオール歩合給が有利ということはできません。
歩合給と比較するなら、売り上げに対する賃金支給率を考慮して、歩合給なり固定給を適正に設定し直さなければフェアではないでしょう。
言い換えれば、歩合給と固定給で割増単価が有利・不利と論じること自体ナンセンスと考えます。
(この考え、間違ってないでしょうか・・・・!?)