Q8:〇年以内に退職する場合、会社が負担した2種免許取得費用を返還させるという契約はできますか?

A8:「消費貸借契約」に基づき「貸与」した教習費用であれば、一定期間の勤務や乗務数を「返還免除」の条件とすることは、労働基準法16条違反にはならないと考えられます。

解説

労働基準法16条(賠償予定の禁止)では、
「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」
と定めています。
例えば、1年以内に辞めたら(違約金として)20万円支払え、とか、会社の備品を壊したら(実損に関わらず)10万円支払え、といった契約を交わすことは、そもそも16条に照らして無効となります。
なお、ここで禁止されているのは、現実の損害の有無や程度を問わない一定額の支払いをあらかじめ約束することであって,現実に生じた損害を請求すること自体が禁じられているわけではありません。

それでは、会社が実際に負担した2種免許取得費用を返還する定めはできるのでしょうか?
タクシー会社で、教習生を募集しているところは、「2週免許取得費用は全額会社負担」としているところが大半だと思います。
せっかく会社の費用で取得させたのに、すぐに別の会社(つまり、条件のもっといいところ)に行ってしまった・・・という、経営者の方の恨み節を聞いたことがあります。それでも、労基法16条に照らせば、それを一定年数勤務しなかったからと言って、「違約金」や「損害賠償」として請求することは困難だと考えられます

実務的な対応としては、「消費貸借契約」に基づく、教習費用の貸与としておくことです。つまり、「2種免許取得費用は、あくまで会社から『貸与』するものです。そして、〇年間うちの会社で勤務してくれたら、その『返済を免除』しますよ」ということです。

過去に、消費貸借をめぐる裁判として東亜交通事件(大阪地判平成21.9.3)があります。そこでは、まず、入社時に会社は本人に対し、交付した費用のうち2種免許取得費用(学校費用・教習費)および支度金は、タクシー乗務員として800日の乗務日数を満たしたときは返済義務を免除することを説明し、そのような内容の金銭消費貸借契約書を締結していしたことが認められ、その上で、
① 教習を受けている間は使用者の指揮監督下にはなく、業務にも従事していない 
② 2種免許を取得すれば他のタクシー会社に就職してもその資格が生かせる 
③ 教習費用はそもそも本人が負担すべき費用を会社が代わって支出したにすぎない
こと等が認められるから、一定期間の乗務実績がある場合に返還義務を免除する旨の特典を付したとしても、それが労基法16条に違反することはないとされ、教習費等の返還請求が認められました。

何より大事なのは、単に口頭ではなく、書面で「消費貸借契約」を交わすと同時に、費用はあくまで貸与であること、そして返還免除の条件について、ご本人に対して説明を十分に行い、理解していただいた上で合意しておくことです