Q13:減給の制裁は労基法で「一回の額が平均賃金の一日分の半額まで」とされていますが、数千円程度にしかならないので処分として軽い気がします。「一回の額」という制限なら、事案の重さによって「平均賃金の半額」を数ヶ月にわたって行うことはできないのでしょうか?
A13:労働基準法第91条で、減給の制裁は「一回の額が平均賃金の一日分の半額を超えてはならない」としているのは、「一回の事案に対して」減給の総額が平均賃金の一日分の半額以内でなければならないことを意味しています。よって、どんなに事案が重くても、一回の事案であれば平均賃金の半額までの減給しか行うことができません。事案の重さと処分内容にバランスが取れないということであれば、乗務停止など更に重い懲戒処分を検討するべきです。
以前ある会社から、それなりに重い非違行為が発覚した社員に対し、就業規則に基づく懲戒処分として減給を行うことを相談されました。
その社員の直近3ヶ月の賃金から平均賃金の半額を算定したところ、4千円ちょっという金額でした。
それを見た社長は、「こんな額で懲戒の意味あるの!?」「駐停車違反の反則金の方がよっぽど高いじゃない?」と驚かれていました。
しかし、労働基準法91条では次のように規定されているのです。
(制裁規定の制限)
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
常に給料が60万円以上あるようなハイパフォーマー乗務員であれば、平均賃金の半額が1万円以上ということもあるでしょうが、世の多くの乗務員なら数千円というところでしょう。
果たして数千円の減給で懲戒処分の効果はあるのか?という社長の疑問。そこで冒頭の質問になるのですが、非違行為が再犯や重大な違反などの場合は、もっと減給額を大きくしなければ懲戒にならない。それなら、月に「平均賃金の1日分の半額」はやむを得ないとして、再犯の場合は3ヶ月にわたり減給、重大な違反の場合は6ヶ月にわたり減給など、その減給する月数を増やすことはできるのではないのか?
この点については、次のような行政通達が出されています。
「一回の額が平均賃金の一日分の半額を超えてはならない」とは、一回の事案に対しては、減給の総額が平均賃金の一日分の半額以内でなければならないことを意味する。(昭23.9.20基収1789号)
したがって、一事案の減給の”総額自体“がMAXで平均賃金の一日分の半額までであり、そう考えると、複数月にわたり実施することで総額を大きくすることがそもそもできない、ということになります。平均賃金の半額をさらに2分割して、2ヶ月にわたり減給するのは可能でしょうが、それでは意味ないですよね。
ただし、1事案ではなく複数事案に対する減給で、結果として合計額が月の賃金の10分の1を超えるため、翌月にまたがるということはあり得ます。
再犯や重大な非違行為に対して、減給の額が小さすぎる、バランスが取れないということであれば、そこで出勤停止や乗務停止、といった更に重い処分を下すような規定にしておくということです。
もっとも、出勤停止や乗務停止は、その間、給与が発生しないので本人にとっては重い処分でしょうが、タクシー会社にとっても売り上げが入らないので、痛みを伴います。うーん、難しい・・・。