1.無期転換ルール

ことの発端は、平成25年4月の労働契約法改正による「無期転換ルール」の導入でした。
有期労働契約者が、同じ使用者のもとでの有期労働契約が「5年」を超えて繰り返し更新された場合、本人の申込があれば「無期労働契約」に転換しなければならないというものです。
いつ雇止めに合うかわからない、不安定な働き方を余儀なくされる有期労働契約者の「雇用の安定」を実現させることが目的でした。
当時、福岡労働局で自動車運転者時間管理等指導員だった私は、タクシー協会の研修会等でこの「無期転換ルール」の制度説明をさせていただきました。
そのとき、多くの経営者の方から寄せられた質問があります。
「定年後再雇用が当たり前、60代、70代が大勢いるタクシー会社でこんなルールを認めたら、本人が辞めたいと言わない限り死ぬまで雇用することになるじゃないか(90歳でタクシー運転手なんて怖いだろ?)」
「無期転換を発生させないことはできないのか?」「雇用年齢の上限は設けられないのか?」などなど。
確かに。定年後再雇用で働き続ける高齢者に対して、この無期転換ルールがそもそも必要なの? 法改正の趣旨とは違うんじゃない? と実は私も感じてました。
ただ、その時の行政立場的回答としては、
「無期転換者に対し、雇用の上限を定めることは『定年』を除いてできないので、例えば『第2定年』を就業規則に定めておくことが考えられますね」というものでした。しかし、反応はイマイチ・・・・。
この無期転換ルールは、平成25年4月以降に締結・更新した有期労働契約からスタートということでしたので、現実には平成30年4月以降にならなければ対象者が発生しない(まあ、まだ先のことだよね)ことから、業界のざわついた声は一旦は沈静化したようでした。

2.有期雇用特別措置法

そんな時、平成27年4月に「有期雇用特別措置法」が施行され、①専門的知識等を有する有期雇用労働者 ②定年に達した後引き続いて雇用される有期雇用労働者 については、雇用管理に関する一定の措置が講じられるなら特例として無期転換申込権を発生させないことができる、ということになりました。
具体的には、「第二種計画認定・変更申請書」という1枚ものの書類を作成し、措置の内容等が確認できる添付書類(就業規則など)を添えて、所轄の労働局に提出を行い、認定を受けるというものです。
あまり難しい申請でもなかったので、すでに認定を受けたタクシー会社も多いかと思います。
やれやれ、これで高齢乗務員の無期転換は発生しない・・・・。

3.落とし穴

が、ここで思わぬ落とし穴があります。
この有期雇用特別措置法の認定を受けていても、高齢乗務員の無期転換申込が全て発生しないわけではない、ということです。
考えられるのは、①自社の定年年齢を超えた方を嘱託乗務員や定時制乗務員として新規に採用する場合と、②定年年齢前から雇用している定時制乗務員を定年年齢後もそのまま継続雇用している場合 です。
① については、他社で定年を迎えたが、そこを辞めて移籍してきた、あるいは自社にかつて在籍していた方が、高齢になってまた「乗せてくれ」と戻ってくるようなケース。
②は、定時制乗務員にはそもそも定年がないので、契約更新を繰り返した結果、そのまま定年年齢をすり抜けてしまうようなケースです。
これらの高齢乗務員には有期雇用特別措置法に基づく特例は及ばないのです。なぜなら、この特例は自社で定年を迎えて、その後引き続いて雇用されている有期労働契約(継続雇用の高齢者)の方が対象だからです。
例えば、B社で60歳定年を迎えたのち継続雇用されていたCさん。ライバルのA社(同じく定年は60歳)の嘱託勤務の方が条件がいいと聞き、B社を辞めて62歳でA社に移りました。
嘱託乗務員として働き始めたCさんは、1年更新の契約で勤務を続け、入社から5年後、5回目の契約更新がなされました。そうすると、Cさんは67歳にして「次の契約から無期に転換してください」と申し出ができるのです。
それを身近に見ていた65歳のDさんは、50代後半からずっと定時制乗務員でしたが、自分も気が付けば5年超、次の契約からは無期にしてみよう! なんてこともあり得ます。

4.第2定年

では、このような事態は防げるのでしょうか?
本人が申し出る限り、無期転換自体は認めなければなりません。正社員にするということではなく、同じ労働条件で、雇用期間のみが撤廃されるということです。
では、解雇を前提としないなら、本人が自ら辞めると言わない限りは雇い続けるしかないのか?
ここであらためて、「第2定年」の出番となります。
例えば、次のような規定を就業規則に設けておくことが考えられます。(第1定年が60歳、第2定年が75歳の場合)
「第〇条 満60歳以上で無期労働契約に転換した従業員の定年(以下「第二定年」という)は満75歳とし、第二定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。」
第2定年を何歳とするかは考えるところです。第1定年が何歳かによっても変ってくるでしょうし、第2定年後も継続雇用を想定するなら、あまり若い年齢で第2定年を定めてしまうと同じような問題が発生しかねません。じゃあ第3定年? きりがないのでやめましょう。「第二種計画認定・変更申請書」の変更申請で対応できるのかもしれませんが、様式を見るにそもそも第2定年など想定しているかは疑問です。

最近は高齢ドライバーの事故も社会問題となっています。会社としても、安全や健康面を考えて乗務していただくのはMAXで〇歳までとするなら、その年齢を第2定年とするのも一つの考え方です。その後の継続雇用は行わないということであれば、無期転換を希望しない有期労働契約者の雇用上限も同じ年齢にしておくのが平等でしょう。
現状で、その年齢を超えた高齢乗務員が在籍しているなら、猶予期間を設けることも必要です。
タクシー乗務員は乗客の命を預かるお仕事でもあるわけですから、そこは適切な定年年齢なり雇用上限年齢なりを検討していただきたいと思います。