Q1:タクシー会社の給料で、オール歩合給とか、完全歩合制というのは、法律違反ではないのですか?
A1:会社が給料の決定、計算の方式として、オール歩合給とか、完全歩合制の方法をとること自体は違法ではありません。ただし、次の場合は違法となります。
1.実際に労働した時間があるにもかかわらず、給料がまったく支払われない
2.時間外労働や深夜労働があるにもかかわらず、所定の割増賃金が支払われない
3.時間に換算した額が地域別最低賃金額に達していない
解説
1.について
会社は、月給制とか、日給、あるいは時間給制など、給料の決定、計算の方法を自由に設定することができます。仕事の成果に応じて支払われる歩合給制や、出来高給制といった算定方法をとることも認められています。
もっとも、成果がなければ給料を支払わない、ということまで労働基準法で認められるわけではなく、労働者保護の観点から次のような規定を設けています。
労働基準法第27条(出来高払制の保障給)
「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。」
この、「労働時間に応じ」がポイントとなります。実際に労働した時間がある以上、成果がなかったとしても、働いた時間に応じた一定額の賃金は支払わなければなりませんよ、ということです。
「一定額の賃金」については、労働基準法上の規定はないのですが、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準について」(平成元.3.1基発第93号 いわゆる「93号通達」)という行政通達の中で、保障給について、「歩合給制度が採用されている場合には、労働時間に応じ、固定的給与と併せて通常の賃金の6割以上の賃金が保障されるよう保障給を定めるものとすること」さらに、一時間当たりの保障給は、各労働者が過去3ヶ月程度の期間に支払われた賃金を時間換算したものの6割以上の額とすること、と言っています。
しかしながら、オール歩合給や完全歩合制を理由に給料が支払われないことは論外として、今のタクシー業界の現状で、この通常の賃金の6割という保障給に関し、どの程度の法違反が問われているかはわかりません。
なぜなら、それ以前の問題として、2.の割増賃金や3.の最低賃金の問題の方が法違反に問われやすいからです。
2.について
よく誤解されているのですが、歩合給制や出来高給制であっても、法定時間外労働や、深夜労働(夜10時~翌朝5時)をした場合は、労働基準法37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)に基づき割増賃金が支払わなければなりません。
割増賃金を計算する上での基礎となる賃金額(要は時間単価)も、労働基準法施行規則19条で次のように定められています。
「出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額」
この時間単価に、労働基準法第37条で定める割増率(法定時間外労働は25% ただし60時間を超える分は50%、深夜労働は25%、法定休日労働は35%)と、実際に働いた時間を乗じて割増賃金を計算します。
支払われていなければ、労働基準法37条違反ということになります。
3.について
最低賃金をクリアしているか考える際には、単に、支払われた給料全てを時間単価に換算した額が超えていればいい、ということではありません。
法律上、最低賃金の対象となる給料は、臨時に支払われる賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金、時間外割増賃金、休日割増賃金、深夜割増賃金、皆勤手当、通勤手当および家族手当を除いた額です。
もっとも、除く以前に、時間外労働や深夜労働をしているにも関わらず、これらの割増賃金自体が支払われていなければ、その時点でまず、2.の労働基準法37条違反となります。
最低賃金の対象となる賃金額(時間単価)は、最低賃金法施行規則2条により計算します。
「出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、当該賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を、当該賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によつて労働した総労働時間数で除した金額」
計算自体は、2.の労働基準法施行規則19条と同じです。
この時間単価にした金額が、各都道府県の地域別最低賃金を下回っていたら、最低賃金法違反となります。
なお、計算例は、このサイトの次の記事にも掲載していますのでご参照ください。
最低賃金について オール歩合給制の場合
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