年次有給休暇の賃金

年次有給休暇を取得した期間の賃金は、労働基準法第39条第9項で、次のいずれかで支払うことになっています。

  • 平均賃金(過去3か月間における1日あたりの賃金)
  • 所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
  • 標準報酬月額の30分の1に相当する金額(労使で書面協定した場合)

実際にどれで支払うかは、就業規則・労使協定等の定めによります

平均賃金による場合

原則として平均賃金は次の式により算定します。

ただし、歩合給制時給制、日給制の場合には、(A)式で計算した額が次の(B)式で計算した額を下回る場合、 (B)式で計算した額が平均賃金となります

要するに、(A)、(B)比較して高い方を取らなければなりません。

所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金

労働基準法施行規則第25条では、労働基準法第39条第9項の規定による「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」の算定方法を示しています。
ざっくり書くと、以下の通りです。

  • 時給制の場合は、時給×その日の所定労働時間
  • 日給制の場合は、その金額
  • 週給制の場合は、賃金額を週の所定労働日数で割った額
  • 月給制の場合は、賃金額を月の所定労働日数で割った額
  • 出来高払制の場合は、賃金額を総労働時間数で割った金額×1日平均所定労働時間数
  • 二種類以上の組み合わせの場合は、それぞれで計算した合計額

出来高払制つまり歩合給制の場合の計算例をみてみましょう

〔条件〕
 ・月の所定乗務数:12乗務(隔日勤務) 所定労働時間:14時間
 ・1乗務について年次有給休暇取得(実乗務数は11乗務)
 ・11乗務の総労働時間は176時間(14時間×11乗務+22時間(残業))
 ・月の営収 440,000円
 ・賃金 233,750円
  440,000円×50%(歩率)=220,000円
  220,000円÷176時間× 0.25×22時間=13,750円(時間外割増)

有給休暇手当(所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金)は?
=月の賃金(実乗務分)÷総労働時間×1乗務の所定労働時間
 233,750円÷176時間×14時間≒18,594円

ただし、最近の判例(国際自動車事件 高裁差戻審判決など)では、例えば割増賃金の算定について法条文の算定方法と同一とすることを義務づけているわけではない、とあるように、「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」も、労働基準法施行規則第25条の通りの計算を義務付けているとまでは言えないでしょう

ここでは、参考までに オール歩合給の場合の 「仮想営収方式」での計算例を示してみます。

まず、1乗務分の平均営収を算定します。
・月の営収÷実乗務数
 440,000円÷11乗務=40,000円
これを、休まずに乗務したら“売り上げたであろう”金額(仮想営収額)と考えます。

この仮想営収額から有給休暇手当を算定します。
例えば 仮想営収額×歩率※
 40,000円×50%=20,000円

※歩率が、所定労働時間分とそれ以外(〇時間分の時間外割増相当)にあらかじめ明確に区分されているのであれば、ここでは所定労働時間分の歩率を採用してもいいかと思います。
例えば、50%の内訳が所定労働時間分45%、時間外割増分6%とされているなら・・・・

 40,000円×45%=18,000円

仮想営収方式については、他の計算方法もあり、特に決まったものがあるわけではありません。「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」としてきちんと説明がつくのであれば、会社独自の計算法を定めても特に構わないかと思います

標準報酬月額の30分の1に相当する金額

一般に、4月,5月,6月に支払われる賃金額の平均を下表にあてはめて、標準報酬月額を決定します。これを30で割って日額にしたものを用います。(法律上、5円未満の端数は切り捨て、5円以上10円未満の端数は10円に切り上げるとされています)

標準報酬月額

この計算方法は、タクシー会社では多く採用されている気がします。

肝心なのは、この計算方法を選択する場合は、あらかじめ「労使協定」の締結が必要ということです。

労使協定:労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者との書面による協定

具体的には、以下のような内容です。

年次有給休暇の賃金に関する協定書

株式会社〇〇(以下「会社」という。)と会社の従業員代表は、労働基準法第39条第9項ただし書に基づき、年次有給休暇の賃金に関し、下記のとおり協定する。

第1条 会社は、従業員が年次有給休暇を取得した期間に対して支払うべき賃金として、健康保険法第40条第1項に規定する標準報酬月額の30分の1に相当する金額を支払う。
・・・・以下、省略

〇年〇月〇日

株式会社〇〇 従業員代表 □□ □□印
株式会社〇〇 代表取締役 □□ □□印

労使協定無しにこの計算方法を採用すること自体、労働基準法に抵触するということになってしまいます。すみやかに協定してください

ちなみに、この労使協定は、労働基準監督署への届け出は義務付けられていません

有給手当の計算方法をその都度変えていいか?

もっと言えば、その都度、“会社に有利な方法”で計算することは可能か、ということですが、この点、行政通達により明確に否定されています。

【年次有給休暇の賃金の選択】
「年次有給休暇の賃金の選択は、手続き簡素化の見地より認められたものであるから、労働者各人についてその都度使用者の恣意的選択を認めるものではなく、平均賃金と所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金との選択は、就業規則その他によって予め定めるところにより、又健康保険法に定める標準報酬日額に相当する金額の選択は、時間外労働協定と同様の労使協定を行い、年次有給休暇の際の賃金としてこれを就業規則に定めておかなければならないこと。又この選択がなされた場合には、必ずその選択された方法による賃金を支払わなければならないこと。」(昭27.9.20 基発第675号、平11.3.31基発第168号)

まずは、どの計算方法で行うかを就業規則や労使協定等に定めること、いったん定めたら、その計算方法によらなければならない(勝手にその都度変えちゃダメ)、ということです。

計算方法を変更するなら、就業規則や労使協定等を変更した上で行うことが前提になります。

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