1.オール歩合給の場合

運賃収入に一律の歩合率を乗じたものを賃金とするならば、次のようなグラフとなります。

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歩合率をどうするかは、車両の減価償却費、燃料費、事務職員や配車係、整備士の人件費、福利厚生費などの経費を勘案して、会社によって異なるかと思います。
さらには、賞与や一時金を含めて月例賃金とするかによっても違ってくるでしょう。
なお、歩合給とはいえ、時間外・休日労働や深夜労働に対する割増賃金は支払わなければなりません。

ここでは、割増賃金も含めて歩合率を設定しているものと仮定し、次のような内訳とします。

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さて、オール歩合給という考え方は、経営側にとって、あるいは常に高運収をあげる乗務員にとっても(気持ち的には)もっともスッキリするシステムでしょう。

しかし、グラフを見てもわかるように、運収をあげることができなければ、徐々に賃金は減り、最後にはゼロになる。これがオール(完全)歩合ということです。

もちろん、労働基準法上の労働者に対しては、そのようなことは認められていません。具体的には、労働基準法第27条で次のように規定されています。

「出来高払制その他の請負制で使用されている労働者の賃金については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」

つまり、たとえ成果(運収)が少なかったり、極端に言えばゼロであったとしても、労働者が業務に従事した限りは、その労働時間に応じた賃金は支払わなければならない、ということです。

さらにタクシー乗務員の保障給について、「93号通達」の中で次のように述べられています。

「歩合給制度が採用されている場合には、労働時間に応じ、固定的給与と併せて通常の賃金の6割以上の賃金が保障されるよう保障給を定めるものとすること」

この「通常の賃金の6割以上」の考え方として、同通達は、以下を示しています。

①「通常の賃金」は、各人の標準的能率で、通常の労働時間(勤務割に組み込まれた時間外労働及び休日労働の時間を含む)を満勤した場合に得られると想定される賃金額(時間外労働及び休日労働に対する手当を含む)である。

②1時間当たりの保障給の下限は次の式で計算する。

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具体的な計算方法としては、各人ごとの過去3カ月程度の賃金の総額を、その期間の総労働時間で割った時間単価の6割以上を保障給の単価とする、としています。

では、こうなるのでしょうか?
冒頭の勤務モデルで、乗務員Aさんが働いた結果、次のような賃金額になったとします。(総労働時間は毎月同じだったと仮定)

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6~8月分の賃金で保障給を試算すると、次のようになります。

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1時間当たりの保障給は1,080円。9月の保障給は、この1,080円をもとに計算することになります。

月額については、この単価に総労働時間を乗じればいいのか? あるいはこの単価を基礎として、時間外や休日労働に対しては割増率を考慮するのか? 通達には記されていません。

単に総労働時間を乗じるなら、保障給は238,680円(1,080円×221時間)ですが、割増賃金を考慮すると、275,076円(1,080円×221時間+1,080円×0.25×33時間+1,080円×0.35×17時間+1,080円×0.25×78時間)となります。

上記の算定に使った「通常の賃金」は割増込みの賃金なので、保障給の時間単価を更に割増する必要はないような気がします。

ということで、9月の歩合給は215,000円なので、前者の場合は23,680円が不足であり、その差額を保障給として支払ういう考え方になります。

しかし、現実に各人毎に保障給を算出し、支給している会社があるのでしょうか??

「93号通達」では、そのつど各人の賃金実績で保障給を算定するかわりに(おそらく面倒なので)、「定期的にあらかじめ決めておく」というやり方も認められています。具体的には、会社の歩合給制労働者全員の3か月程度の賃金をその期間の全員の総労働時間で割った時間単価の6割以上、ということでも差し支えないとしています。

この方法により、もしも定期的に決められた一定額の保障給が210,000円だったとしたら、9月のAさんの賃金額はこれを上回っているので、特に保障給の支払いは必要ない、ということになります。

この、「定期的にあらかじめ」のやり方は、どの3か月を取るかによっても、結構違ってくるのではないかと思われますが・・・。あえて、このやり方をとるなら、会社としては比較的閑散期である3か月をベースに決めたいところでしょう。

しかし肝心なことは、この保障給の考え方自体、果たして現実的なのか? ということです。

運賃収入は年々減少の傾向にあり、厚生労働省の「賃金構造基本統計」でも、平成25年にタクシー運転手(男女計)に支給した現金給与は全国平均233.2千円(福岡県203.5千円)※いずれも所定外給与込み となっています。
もちろん、日勤や隔勤、定時制もすべて含めた数字ではあるでしょうが、仮にこの水準で保障給(通常の賃金の6割)を考えると、全国平均139.9千円、福岡県122.1千円という試算になります。

福岡県12万2千円・・・・所定外給与込みでこの金額なら、むしろ考えなければならないのは「最低賃金問題」ということに行き着くのです。

なお、ここまで話を簡略化するために一律歩合給制を前提として説明しましたが、運収を金額により区分して、区分ごとに徐々に歩率を大きくする積算歩合給制(運賃収入と賃金の関係を表すカーブに不連続点がないことを前提とする。これに対して、非連続となるのが累進歩合給制であり、93号通達では廃止すべきこととされている)による場合も、歩合給制である以上、考え方としては同じです。

つづき タクシー乗務員の賃金についての考察③

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