法定労働時間を超えて働かせる場合や、法定休日に出勤して働かせる場合には、事前に「時間外・休日労働に関する協定(いわゆる36サブロク協定)」を労使間で締結して、所轄の労働基準監督署に届出しておかなければならない、というのは皆さんご存知だと思います。

36協定で締結しなければならない内容は次の通りです。

①時間外または休日労働をさせることができる労働者の範囲
②対象期間(1年間に限る)
③時間外または休日労働をさせる必要のある具体的な事由
④1日・1か月・1年について、法定労働時間を超えて延長することができる時間数または労働させることができる法定休日数
⑤協定の有効期間
⑥1年の起算日
⑦厚生労働省で定める事項協定

問題は、この「延長することができる時間数」

36協定さえ結べば、何時間でもOKというわけではないんですね。

一般業種の場合

改正労働基準法により、延長させることができる「限度時間」は、1ヵ月については45時間まで、1年については360時間まで、と決まっています。(対象期間が3ヶ月を超える1年単位の変形労働時間制の対象者の場合は、1ヵ月42時間、1年320時間となります。タクシー会社ではあまり聞きませんが)

ですから、乗務員以外の、運行管理者、整備、配車、事務職の方などについては、この限度時間内で延長できる時間を定めることになります。
ただし、この限度時間に収まらないことが見込まれるのであれば、「特別条項」付き36協定を締結することになります。
タクシー会社の一般業種ではレアケースと思われますのでここでは割愛しますが、「特別条項」については、時間外労働の上限規制のページで解説しています。

乗務員の場合

タクシー乗務員(自動車運転の業務)は、現状、改正労働基準法の上限規制(つまり、限度時間や特別条項を協定すること)は適用が猶予されています。一方で、「改善基準告示」(詳細は改善基準のポイント)という別のルールで規制はかけられていますので、延長できる時間については「改善基準告示」にのっとって考えることになります。

拘束時間は、1日と1カ月について決まりがあります。また、勤務交番の多くは、1か月単位の変形労働時間制(詳細は隔勤のような長時間の所定労働時間は違法?)によって運用されており、法定労働時間の枠※一杯で所定労働時間を定めているケースが多いと思います。

※法定労働時間の枠とは、次のように考えます。
暦日数が30日(小の月と言います):40時間×30日÷7日≒171.4時間
暦日数が31日(大の月と言います):40時間×31日÷7日≒177.1時間

日勤と隔勤それぞれについて、延長できる限度時間を数式にしてみました。

【日勤の場合】

〇1日の限度時間

〇1か月の限度時間

【隔勤の場合】

〇1日の限度時間

※隔勤の場合、1勤務が2日にわたる勤務ですが、その1勤務における時間外労働の上限時間を延長時間として協定します

〇1か月の限度時間

【算定例】

隔日勤務で車庫待ち特例なしの場合
1日に延長できる限度時間は
・所定16時間(休憩時間2時間)→ 21時間-16時間-2時間=3時間
・所定15時間(休憩時間2時間)→ 21時間-15時間-2時間=4時間
・所定14時間30分(休憩時間2時間)→ 21時間-14.5時間-2時間=4.5時間

隔日勤務で1箇月12勤(1勤務の休憩時間3時間)車庫待ち特例なしの場合
1カ月に延長できる限度時間は

※暦日数によって異なります。

いかがでしょうか?

所定労働時間や休憩時間、仮眠時間について明確に決まっていれば、算出は簡単だと思います。

ただ、問題は、算定例にあるように大の月と小の月で延長できる時間が違う場合、どちらを協定書に記載すべきか、ということです。

どちらを記載しても間違いではありません。

最大限の数値を記載しておく方が安全だ、と考えるなら、限度時間の大きい方にすべきですが、小の月は、当然小さい数字で運用しなければなりません。

せっかく36協定を締結・届出していても、締結していた時間を超えて労働させてしまったら、労働基準法違反になってしまうのですから。

実際、会社によって対応は違うようです。

私が見た中でも、あえて大の月でも、小の月の限度時間におさまるように管理している会社もあれば、それぞれの数字を併記して協定書に記載し、運用している会社もありました

この考え方は、車庫待ち特例で算定される数字についても同様です。

なお、1年については、改善基準で拘束時間の定めはありませんが、1箇月の時間外限度の時間数×12より短い時間とすることが望ましいでしょう。

上限規制の猶予が終わる2024年4月以降は、限度時間を超える場合には特別条項付き36協定が必要になり、年間の時間外労働の上限は960時間になることにも留意が必要です。(詳細は時間外労働の上限規制

2024年4月からの新様式に対応した36協定のひな形と記載例はダウンロードページにあります。ご利用ください。